9月13,14日、ドイツミュンヘンで開催されたビアソムリエワールドカップ2025、日本代表として出場されたのは、見事日本代表選考会を勝ち抜かれたドゥーメンスビアソムリエの中島輝行さんと内田志歩さんのお二人。さらにジャパンビアソムリエ協会理事のセバスティアン ホーヘンタナがドイツ代表として出場。世界大会予選では、ビアスタイルとオフフレーバーのブラインドテイスティングと筆記試験。準決勝はブラインドテイスティングコメントパフォーマンス、決勝は、ビールプレゼンテーションによって競われます。今回、残念ながら3人とも準決勝にすすめませんでしたが、出場者の1人、内田さんに世界大会に出場された感想について寄稿いただきました。
(写真は向かって左に内田さん、右が中島さん、中央はセバスティアン)
今年6月の日本予選で世界大会に出場する権利を得てから半年間、さらに遡って、約1年前のドゥーメンスビアソムリエの資格を得るために勉強し始めて以降、ビアソムリエとは一体何なのか、どうあるべきか問い続ける日々でした。9月の世界大会決勝は、そのヒントを得られた貴重な機会でした。この人にビールをサーブしてもらいたい、そう思わせたのが今回トロフィーを獲得した3名のビアソムリエだったなと。
ビールの醸造、原材料の確保、その物流と、ビールを取り巻くあらゆる役割の中で、ビールに触れる瞬間を創造する、ドゥーメンスの言葉を借りれば、ビアソムリエは「伝統と革新が息づくこの飲み物の魅力を再発見」し、「多彩なスタイルと食との相性の豊かさにより、知的で洗練された楽しみを与える」※1という特異な地位にあります 。入賞者は、それぞれがその役割を探求し「humble※2に、ビールに向き合い、学び、技術を磨いたのだろうなと、予選、準決勝、決勝に挑む姿から感じました。
その予選。経験の無い香りが出題されたオフフレーバーはともかくとして、ビアスタイルのテイスティングでは、例えば、Vienna Lagerの苦味とモルトフレーバーのバランスを冷静に感じ取れば、或いは、Italian Grape Ale のclarityとcarbonationを冷静に分析できれば、もう少しよいスコアを得られただろうと思います。予選で終わってしまった私と異なり、冷静に緻密に、そして的確にビールを見る能力が、今回の入賞者にはあったのではないかと、準決勝、決勝のパフォーマンスから推察されます。例えば、準優勝のDennis Kort さんは、準決勝で、見事にDuvelのBelgian IPAを表現しました。Belgian yeastゆえにアロマ、フレーバーともに感じ取られる多くの要素の中で、ビールのバランスそのまま、豊かなホップのアロマ、フレーバーに的を絞って、言葉豊かに表現しました。優勝したLéon Rodenburgさんは、決勝においてLa Trappe Tripelを、カーボネーション、モルト、イーストそれぞれがビールの全体的な印象にどう影響を与えるのか、的確にかつ論理的に説明しました。あれだけの緊張感の中でも冷静に分析し、生き生きとビールをプレゼンする姿は、日々の鍛錬の成果を如実に物語っています。
的確な分析能力、表現力もさることながら、ビールに関する幅広く確実な知識も、ビアソムリエにとっては欠かせない重要な要素です。予選の筆記は、醸造技術から、歴史、ビアスタイルまで幅広い知識が問われ、私自身は回答にかなり苦労しました。一方の決勝進出者は、ブラインドテイスティングでズバリとスタイル、銘柄を当てる、或いは、Trappistビールの3原則を正確に説明し一つ一つの醸造場の歴史まで語ることができるほどの知識量を有していました。今回3位だったOliver Klammingerさんは、決勝のフードペアリングのプレゼンで、Trappist醸造所でフードがサーブされる様子をグラスの音で再現しましたが、そういった個人的な経験も、Trappistビールに関する豊かな知識に基づかなければ、あれほど魅力的にプレゼンはできないだろうと思います。
このように、圧倒的なソムリエのロールモデルを前に、ドイツへ来て、日本で飲むドイツビールと現地のビールが同じスタイルなのにここまで味が変わるのかと、衝撃を受けているような自分など、足元にも及ばないなと、反省の域を越え、ただ屈辱で胸がいっぱいです。そう思う一方で、こんなソムリエがいたら、日本のビアシーンはどれほど豊かになるだろうと、湧き上がる好奇心を抑えられない自分もいます。豊かな経験と知識に裏打ちされた自信とプライド。2年という月日が十分な準備期間とは言えないかもしれません。しかし、日本のビール旋風と強いビール愛を目の当たりにすると、2年後のオーストリアで、日本から世界に誇るビアソムリエ誕生も夢ではない、夢で終わらせてはいけないと思います。
最後になりますが応援してくださった皆さん、最後まで勝利を信じてサポートしてくださった、ビアソムリエ協会の皆様に心から感謝を申し上げます。
Unfold your passion for beer! Cheers!
文:ビアソムリエ世界大会日本代表 内田志歩(ドゥーメンスビアソムリエ)
~~脚注~~
※1 原文「Redesign the image and the value perception of this millennial and traditional beverage, uncovering its historical, philosophical and cultural importance. The styles diversity and the gastronomic versatility at the service of the intelligent appreciation.」https://doemens.org/en/beer-sommelier/
※2 今大会の直前に、世界大会参加者は、主催者側への自己紹介として事前に3つの質問を与えられた。その一つが、ビアソムリエのチャンピオンに値する者はと言う問いだったが、その回答の多くで「humble」すなわち謙虚さが挙げられた。