2025年9月現在、日本国内には39人のDoemens Biersommelierがいます。ふだんの生業はそれぞれですが、ひとつの目標に向かって学んだ仲間同士のネットワークが構築され、今に活きています。そんな一例を紹介しましょう。
コラボイベントは、品川で開催の大江戸ビール祭り秋2025のシーズン1で行われました。柏ビールKomainu Brewery (千葉県柏市:以下、こまいぬ) 醸造長の下山一宇氏は、Doemens Biersommelierのディプロム資格を日本で取得した第1期生。第3期生のTwin Peaks Mountain Brewing (茨城県つくば市:以下、ツインピークス) のオーナーで醸造長のカーステン・ボイクマン氏が大江戸ビール祭り春2025に出店した際、同期の近藤さをり(筆者)がブースを手伝うついでにBiersommelier-Stammtischをフェスの会場内で行う提案をしたことに端を発しています。こまいぬのロゴは犬、ツインピークスのロゴは猫。いつかどこかで犬猫でコラボができたらいいね、という話が誰からともなく出ました。
コラボの内容は、2つのブルワリーを回って完成させる4杯飲み比べセットを販売し、購入者に両ブルワリーのロゴを配したイベント限定ステッカーをプレゼントするというもの。2個+2個なので、「犬猫ニコニコフライト」と名付けました。できるだけ多くのブルワリーを回って、いろいろなビールを少しずつ試したい人には大好評。購入者は女性客が多かったように見受けました。ステッカーの「CHIBA-RAKI 犬猫FRIENDS」の表記については、「犬と猫って仲悪いんじゃないの?」とか「ぐんたまちばらきって反目しあってるような・・・」などの突っ込みが入ることも。そんな外野のヤジを吹き飛ばすべく、2人のブルワーはユニフォームを交換してブースに立ち、仲良しぶりをアピールしました。
両方のブースを確実に回って貰えるのか? 2杯きりで離脱されないか?という懸念もありましたが、偶然にもブースの位置は、はす向かい。システムが分からず戸惑う人を、相手のブースまでエスコートしてオーダーを手伝う時間も殆どロスにならず。ビールの神様が味方してくれたかのようなレイアウトで、極めてスムーズな連携でした。こまいぬのブースには猫シャツを着た人が、ツインビークスのブースには犬のバックプリントのシャツを着た人がいて、あれっ?と思う紛らわしい状態を作っていましたが、フェスではまず足を止めて貰うことが大切ですからね。

こまいぬの下山氏
開催2日目には、ビアソムリエ達が集まる場を設けました。場内に拠点となるテーブルを決め、各自が好きな時間に来て好きなビールを買って楽しむ自由なスタイルです。この日は雨の予報だったため屋内に陣取りました。ある程度の人数が集まった19時頃から、こまいぬとツインピークスのブルワーによるスペシャルレクチャーを行いました。まずは、こまいぬ醸造長の下山さんから。東大農学部出身で前身は塾経営者だった父の指揮のもと、営業や広報も担当する兄と経営する家族経営のブルワリーです。下山氏はハンガリーの医大に留学していた経験を持つことから、乾杯の音頭はハンガリー語で「Egészségünkre(エゲッシェーグンクレ)!!」。健康のために、という意味だそうで、フランスやイタリアなどのラテン語系、ロシア語、多くの北欧・東欧語などと同じですね。ビアソムリエ協会の交流会での乾杯発声、ドイツ語のProst (Prosit) は利益のために、という意味で、むしろ少数派なのかもしれません。

こまいぬのビールに使用した原料サンプル
ビアソムリエ対象のレクチャーとあって、この日に販売していたビールの原料サンプルを用意した下山氏。ヤマモモヴァイツェンに使用した柏産山桃は意外に甘く、そのまま食べても楽しめると好評。メキシカンラガーに使用のエアルームコーンは、柏市にあるメキシコ在来種トウモロコシを使ったトルティーヤ専門店Molino Campo Nobleから。モルトはダークローストのカラファ・スペシャル 3とカラレッド。ビールのつまみとしてクセになりそう、と無限ループにはまりかけた人続出でした。さすがに乾燥トウモロコシの粒を食べる人はいませんでしたが、試食体験は楽しい学びとなりました。

ツインピークスのボイクマン氏
ツインピークスのボイクマン氏は、生物化学の博士号を持つドイツ人。博士のピルスナー、博士のケルシュ・・・と、ビールの名前の頭に“博士”が付くのは、こうした理由から。つくばに研究所を持つ日本の製薬会社に入社したことで住人となった地で、次なるライフワークとしてビール造りを始めました。加熱濾過しない美味しいドイツビールが日本では飲めない。ならば自身で造ろうと、会社員時代に有給休暇を使って4ヶ月間、沖縄のヴォルフブロイで修行をし、ブルワーの道の第一歩を踏み出しました。目標は酵母ラボを作ることだそうで、既に美味しいビール造りに成功してはいても、その先のチャレンジに向かうバイタリティの持ち主です。筑波山とジョッキを抱える猫のキャラクターは自宅で飼っている保護猫のスーちゃんがモデルで、KAGOYA NECOというアーティストのキャラクターである白猫をハチワレ猫にとオーダーして作って貰ったものだそう。

左から、Nori’s Beerの佐野則寛氏、長野みなみ風ビールの堀内睦巳氏
ディプロム2期生の加治正慶氏が、会場内を回遊してはテーブルにちょくちょく顔を出し、さらにはその幅広い人脈を駆使して、他のブースからブルワーの方々を引っ張ってきては急遽プレゼンテーションを依頼する、という離れ業で会を盛り上げました。Nori’s Beerの佐野則寛氏は、カリフォルニアでホップ畑を見たことがきっかけでビール造りを始めたそう。山梨県で地元の食材を活かしたビールを造っています。フルーツの他、南部茶・甲斐のみどりの茶葉を使ったビールも。長野みなみ風ビール代表の堀内睦巳さんも、信州産の農産物を使ったビールを造っています。フルーツエールが得意で、当日テーブルにお持ちになった長野市松代町のあんずを入れたヴァイツェンが好評でした。お2人とも、ビアソムリエ達のために、持ち場を離れていらして下さり、ありがとうございました。
犬猫ブルワーのレクチャーが終了したところで、受講していたビアソムリエ達との記念撮影。テーブルにいらして下さったのに、この瞬間は不在だったビアソムリエの方々、タイミングが合わずごめんなさい。
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