毎年11月に開催のアメリカンクラフトビア・エクスペリエンス(以下ACBE)、今年はかつてないほどの規模での展開となりました。会場をこれまでの竹芝から日比谷公園に移し、11月22日(土)~24日(月・振休)の3日間「アメリカンミート・ショウケース」とジョイントし、「アメリカンフェスティバル 2025」として開催。米国産ビールを米国産肉料理と共に楽しみ、100%アメリカを味わい尽くすイベントにグレードアップしました。

オープニングセレモニーでの乾杯
「American Festival 2025」は米国大使館農産物貿易事務所が主催、アメリカンクラフトビール協会(Brewers Association、以下BA)と米国食肉輸出連合会との共催で、外務省が後援するものだけに、初日の正午に行なわれたオープニングセレモニーはゴージャス。右手にビール、左手にハンバーガーのジョージ・グラス駐日米国大使が音頭を取って乾杯をした時には既に、ステージ周辺の肉料理キッチンカーには長蛇の列が出来ていました。

左から、ジョージ・クラス氏、バート・ワトソン氏、スティーブ・パー氏
グラス大使のキレの良いトークがお祭りムードを盛り上げます。「私の出身地オレゴンには長い醸造の歴史があり、300以上ものビールがあります。私の血液には間違いなくビールが流れています。ACBEで、できるだけたくさん味見することが私の愛国的な義務とも言えましょう。」と、がっちりつかみを取ったところで、次は蘊蓄話へ。「ビール愛好家でありアメリカのビール醸造の熱烈な支持者であったジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、サミュエル・アダムズといった建国の父たちによって長年にわたり伝統が継承されてきました。独立戦争中、ジョージ・ワシントンは兵士に1日1クォート(ほぼ1 ℓ )のビールを配給しました。アメリカのビールが我々の独立に貢献したと言っても過言ではありません」。ビールのみならず農産物全般についても言及しました。「アメリカは物を生み出す国で、常に品質・味・安全性を重視しています。飲食を真剣に受け止めている日本人の同意以上に大きなお墨付きはありません」。日本で生活する長男を訪ねて就任前から来日経験のある大使の口から出た言葉は説得力があります。
今年はBAのCEOであるバート・ワトソン氏も来日し、セレモニーのステージに上がりました。「日本はクラフトマンシップを重んじる国です。今日は最高品質のアメリカのビールを紹介できることを嬉しく思います。ビールは人と人を繋ぎコミュニティを育みます。ここでそのコミュニティが更に大きく広がることを望んでいます。」と述べました。
ACBEエリアでは、毎年ブルワー達を率いて来日しているBAディレクターのスティーブ・パー氏が市場概況を説明しました。「アメリカには今日9,500軒以上のクラフトブルワリーがあります。代表的なビアスタイルはアメリカンIPAで、全米の1/3がこのスタイルです。クラフトビールは年間2,900万ドルを売り上げており、全米のビールの24%を占めています」。今回は42ブルワリーから21人のブルワーが来日、西はアラスカ・オレゴン・カリフォルニア、東はニューヨーク・バージニア・マサチューセッツから120アイテムのビールが出品されました。「ACBEは10周年を迎えます。ブルワー達が来る目的は、誰がどう考えて造っているかを来場者たちに直接伝えること。日本はアメリカのクラフトビールにとって大切なマーケットです。輸出量の多さというより、良いものを選んで幅広いアイテムを取り扱っているという点で他国より抜きんでています」と、評しました。

ACBEゾーンへのゲート
にれの木広場を二分してビールと肉料理の販売ゾーンが分かれています。その境にはビアジョッキをかたどったゲートが青く澄み渡った秋空に映え、ここから先は美味しいビールが待っていることを来場者にアピールします。購入したものをどちらのゾーンのテーブルで飲食するかは自由。初日は天気も良く、芝生広場でピクニック気分を楽しむ人が多く見られました。

左から、シエラネバダ、ブートストラップ、ヒンターランド、ティルレイ
今回会えた来日ブルワリーの方々です。カリフォルニア州のシエラネバダ・ブリューイングのスティーブ・グロスマン氏。ACBEでは恒例の、本国でリリースして間もないタイミングで飲める『セレブレーション・フレッシュホップIPA』は、初醸造の1981年以来変わらないレシピで、その年の作柄をいち早く知ろうと心待ちにして来場するファンも多いアイテムです。
コロラド州のブートストラップ・ブリューイングのスティーブ&レスリー・カズース夫妻はクラシック・ロックが大好き。動物などのイラストのパッケージデザインは、それぞれ背景となるストーリーがあり、音楽とのペアリングが設定されています。たとえば売上利益の1%を犬の保護や里親探しをするシェルターに寄付する『ダブル・ラッシュ・パピー』はスリー・ドッグ・ナイトを聴きながら、など。ブルワーの話を聞いて飲むビールを決める面白さは、このイベントならでは。
ウィスコンシン州のヒンターランド・ブリュワリーのビル&ミシェル・トレースラー夫妻。ビル氏はホームブルワーからスタートし、UCデイヴィスで醸造学を修め、ビール造り歴30年。ブルワリー併設のレストランでファーム・トゥ・テーブルの料理とビールとのペアリング体験の提供をしています。『パッカーランド・ピルスナー』は麦芽の旨みと爽快なホップ感がどこまでもピュアに持続する本格ジャーマンスタイル。次の1杯が欲しくなります。
ティルレイ・ビバレッジのカイル・アセルスタイン氏(左)とギャレット・サイモン氏。「現在15ブランドのブルワリーを傘下に収めており、全米で17のブルーパブがあります。オレゴン州のベンドとジョーシア州のアトランタに工場があります。アメリカではアルコールフリー需要拡大しており、その点では最もイノベーションを行っている会社です」と、まずは自社の紹介を。今回のACBE出店ブルワリーは、オレゴン州のテン・バレル・ブリューイング、カリフォルニア州のアルパイン・ビール、カリフォルニア州のグリーンフラッシュ・ブリューイングです。テン・バレルの『アポカリプス・ウエストコースト IPA』は、ブルワリーのフラッグシップアイテム。ブラーボ、ノーザンブリュワー、チヌーク、カスケード、センテニアル、アマリロのホップが生み出すシトラシーでパイニーな王道WCIPA。

左から、エンボールデン、ヘビー・リフ、マウイ、トラップドア
カリフォルニア州のエンボールデン・ビール・カンパニーからは、ジョン・トラン氏(左)と抹茶カフェ・マイコのオーナーでもあるウィリアム・スージァディ氏が来日。“イースト・ミーツ・ウエスト”をコンセプトに、日本の原料を輸入しサンディエゴのスタイルで造るのがショーグンシリーズ。『ショーグン・ダスク・イン・キョート』はほうじ茶使用のライスラガーで、馴染みのあるロースト感が日本人には受け入れやすそう。『ショーグン・ミッドナイト・イン・トーキョー』は宇治抹茶使用のヘイジーIPAで、意外性あるフルーティネスが感じられます。
2年前には未輸入ブルワリーとして参加していたミズーリ州のヘビー・リフ・ブリューイングのマイク・ザーラ氏。ギターのリフを意味するブルワリー名で、日本で言えば昭和時代に流行ったロックの名曲がアイテム名に散りばめられています。フラッグシップの『ラブ・ガン』は、ハード・ロックな曲のイメージとは真逆のスムーズなバニラ・クリーム・エール。ザーラ氏お気に入りの『ヴェルヴェット・アンダーブラウン』は、チョコレートブラウニーのようにリッチでクリーミー。
ハワイ州マウイ島のマウイ・ブリューイングからはマイク・ペトカー氏が来日。ゴールドパイナップル使用の『パイナップル マナウィート』、ココナッツ使用の『ココナッツ・ヒワ・ポーター』、オレンジ・マンゴー・グアバ使用の『OMGヘイジーIPA』などローカルな副原料を活かしたビールがある一方、『ビッグスウェルIPA』のようなIBU70のホッピーな定番アイテムも人気。
首に6つのメダルを掛けて誇らしげにサムズアップしているのはトラップドア・ブルーイングのブライアン・シュル氏。11月15〜18日に大阪で開催されたインターナショナル・ビアカップ2025で獲得したものです。中でもトラップドア IPAは金賞を受賞。10月に世界最大規模のビアフェス、グレートアメリカンビアフェスティバルでフレッシュホップIPA部門の金メダルを2年連続で受賞した直後のことです。「ワシントンではフレッシュなホップが入手出来るから!」と語るシュル氏は、ACBE初参加で初来日、日本市場進出も今回が初めてというフレッシュづくしです。

左から、アンユージュアル、カーディナル、えぞ麦酒、スケッチブック
アメリカのクラフトビールの輸入会社アンユージュアル・ホールディングスのティモシー・ユー氏が手に持っているのは、ニューヨーク州アザー・ハーフ・プルーイングの『ホップ・デュオス』(左)と『グリーン・フラワーズ』。全てのビールを空輸、ブルワリー出荷から2週間以内に届く、ベストコンディションでの流通です。タップで提供していたニューヨーク州マーロウのジャパニーズ・ライスラガー『スゴイ』は、11月上旬に醸造したばかりのもので、クリスピーですっきりキレのある風味を堪能できるのはフレッシュだからこそ。
バージニア州出身のグレイソン・シェパード氏がカーディナル・トレーディングを設立し、ビール輸入事業を開始したのは、ハーディーウッドパーク・クラフト・ブリュワリーのものから。インペリアルミルクスタウト『バーボンバレル・ジンジャーブレッド・スタウト』はこの季節に開催のACBEでは名物ですが、本格ジャーマンスタイルピルスナー『ピルス』もひそかに人気。カリフォルニア州アーバンルーツ・ブリューイングはニューワールドスタイルのビールが多い中、『10ディグリーズ』はボヘミアン・ピルスナー麦芽に100%チェコ産ザーツ・ホップの麦芽の旨みたっぷりのチェコスタイルラガーです。
札幌でアメリカンクラフトビール輸入の老舗として日本のクラフトビール市場を牽引してきたえぞ麦酒のフレッド・カフマン氏。ACBE開催の約1週間前に、30年以上も取引を続けてきたオレゴン州ローグ・エールズの閉鎖が報じられ、来場者からも心配の声が聞かれました。「他のアメリカのビールを買ってくれているお客さんがたくさんいるから大丈夫。」と言い、ブースではオレゴン州のホップワークス・アーバン・ブリュワリー、ブレークサイド・ブリュワリー、レベル・ビアなどのアイテムを提供していました。ローグからは『ベリーブロンドエール』が提供されていましたが、早々に飲みつくされていたようです。
未輸入のブルワリーのブースが集まる一角で、日本語で挨拶をしていたのは、イリノイ州のスケッチブック・ブリューイングのテッド・ペレス氏。ホームブルワーとして友人と共にビール醸造を始め、2004年にブルワリーを設立。手に持っているポーリッシュ・スモーク・ウィートビール『グロジスキー』(左)はスモーキーながらラオホより軽やか、『ノー・パーキング』はシトラをドライホッピングした爽やかなセッション・アメリカンペールエール。

新しいオフィシャルパートナーシップを得て、ダイナミックに変貌を遂げたACBE2025。肉料理の香りが良い刺激となり、いつもより杯が進んだのではないでしょうか。来年はどのような顔を見せるのか、今から楽しみです。
過去のレポートはこちら↓↓↓
取材・文 Doemens Biersommelier 近藤さをり







