ジャパンビアソムリエ協会はイタリアのパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会と日本ドリンク協会とコラボして「パルミジャーノ・レッジャーノ ペアリングマスタークラス」を開催しました。事前に「チーズの基本講座」と「ドリンクの基本講座」

シモーネ・フィカレッリ氏
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会は、“イタリアチーズの王様”と称されるパルミジャーノ・レッジャーノの全生産者が所属している業界団体です。パルミジャーノ・レッジャーノ・アカデミーを代表してシモーネ・フィカレッリ氏が来日、その歴史や製法、品質や原産地呼称などの基本情報をチーズの模型を使い分かりやすく解説しました。上の写真の大きさの40㎏のチーズ玉を作るのに520ℓの牛乳が使われます。年間400万玉が作られ、全てが検査を受けます。品質検査ではハンマーでまんべんなく叩き、中に亀裂や穴がないかを音や振動でチェックします。合格した物だけに焼き印が押され、この段階で初めてパルミジャーノ・レッジャーノを名乗ることができます。不合格品は皮を剥がされ粉チーズになります。

アーモンド型ナイフでチーズを“割る”
様々な食べ方がありますが、フィカレッリ氏のお勧めは、シンプルに割って食べること。アーモンド型のナイフをチーズに軽く差し込んでから柄を倒す、あるいはひねるだけで、ホロリと崩れます。鋭利な刃物で切るよりも、割った表面がザラザラして独特な食感と風味を堪能できます。

左から12カ月、24カ月、30カ月熟成
熟成年数別に食べ比べます。12ヶ月、24ヶ月、30ヶ月と熟成が進むにつれ、白い斑点が目立って来ます。これは、たんぱく質がペプチドやアミノ酸へと分解された結晶で、粒状のジャリっとした食感が生まれます。12ヶ月はバターやヨーグルトのような甘い乳酸の香り、指で押すと弾力があり、口の中で溶けずに残る食感です。甘さと酸味がありフレッシュで食べやすく、エメンタールのような風味も感じられます。24ヶ月はフレーバーが増し、加熱したバターや肉の出汁、アーモンドやヘーゼルナッツの風味。口の中でサッと溶け、遊離アミノ酸の旨みが口中に残ります。30ヶ月は水分が抜けて、ナツメグ、パイナップル、グレープフルーツ、ピンクペッパー、黒胡椒などの風味が複雑に絡み合います。アミノ酸の結晶のジャリジャリしたクランチーな食感です。

中島輝行氏
ビールとのペアリングは、中島輝行氏がナビゲーションしました。ビアソムリエ世界大会2025に日本代表として参加した後パルマまで足を延ばしてチーズプラントを訪問。品質管理の厳しさを実感して来ました。
チーズの熟成別に3種のビールをペアリングしました。最初にビールを味わい、ビールが口中に残っているうちにチーズを食べ、ボディが同調しているかが、合わせるポイントだと言います。
■12ヶ月熟成チーズ × ヘイジーセッションIPA (オラホビール)
フルーティさの際立つビールがチーズが持つパイナップルの香りを引き立て、より明るく華やかになる。ビールの原材料にあるラクトースがフレッシュなチーズのホエー由来のミルキーな香りと合います。アルコール度数が低くボディが軽めのセッションIPAは、チーズのコクとのパワーバランスがぴったりハマったそうです。クレソンやルッコラに梨や固さの残る若い桃を載せたサラダに、このチーズをシュレッドして掛けるレシピを紹介しました。
■24ヶ月熟成チーズ × ヘーフェヴァイツェン (シュマッツ)
バランスの良い美味しさのチーズを主体に楽しみたいという発想で合わせました。バナナの香りのクリーミーで苦味のない小麦を使用したビール。バナナやレモンタルトのニュアンスが、少し濃縮したチーズと同調します。ビールが口中でチーズの味わいの輪郭を際立たせ、その美味しさをより堪能できます。
■30ヶ月熟成チーズ × ドッペルボック (パウラーナー)
こちらはビールを美味しく飲むことに重きを置いた組み合わせです。麦の香りとカラメルと、バナナ、レーズン、プルーンなどのドライフルーツの甘みを同時に味わえるABV8%のビール。チーズケーキにドライフルーツを合わせるかのように、五味が拡がります。熟成度合いの高いチーズにはアルコール度数が高くボディのあるビールを合わせるのがお勧めとのこと。

石黒歩美氏(左)と山上昌弘氏
パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会は、これまでに様々な普及活動を日本で展開して来ましたが、2022年には山上昌弘ジャパンビアソムリエ協会会長を講師に招き、報道関係者を対象に「パルミジャーノ・レッジャーノの魅力と酒肴ビアペアリング」と題したプレスセミナーを開催しました。日本ドリンク協会会長でもある山上氏が、今回はさらに他の飲み物との相性について探求しました。24か月熟成チーズを1〜1.5㎝角にカットし、和三盆をまぶした和菓子的アプローチのスイーツ“パレボン”を考案。これに日本茶と日本酒を合わせました。
■パレボン × 茶町ブレンド「望」 (前田金三郎商店)
静岡の茶問屋でTVチャンピオンお茶通選手権優勝者の前田冨佐男氏がブレンドした上級煎茶と。口の中で淡雪のように溶けていく和三盆の甘みとパルミジャーノ・レッジャーノの塩味を、日本茶のふくよかな香気と旨味が心地よく包み込みます。
■抹茶パレボン × 越後鶴亀 純米 (越後鶴亀)
パレボンに抹茶の粉末を少しだけ付けて食べます。備前焼きの徳利でお燗して乳酸やコハク酸の旨みが引き立った純米酒が、くちどけが独特のあまじょっぱいチーズのコクと合います。
長い講義の終盤に入る前にリフレッシュするためのコーヒーブレイクも兼ねて、ドリップコーヒーの提供と共にチーズとのペアリングを紹介したのは、スターバックスの社内競技会「コーヒーアンバサダーカップ」で第15代コーヒーアンバサダーに輝いた石黒歩美氏です。コーヒーの産地別、焙煎別に10種類を合わせてみた結果、深煎りの方が相性が良いという結論に至ったそうです。そして、辿り着いたのがこの組み合わせです。
■12ヶ月熟成チーズ × エチオピア(ダークロースト)のカフェインレスコーヒー
コーヒーにはクリーミーでチーズケーキのように口当たりがなめらかな若いチーズが合わせやすいと考えました。カフェインを除去する工程で生まれるカフェインレス臭さがチーズのクセとマッチする、という意外な発見があったそうです。

早川由紀氏
最後は、チーズプロフェッショナル協会理事でジャパンビアソムリエの資格を持つ早川由紀氏の指導による実習です。チーズ全般の基礎知識や扱い方、保存方法などは既に事前のオンライン講座で早川氏が詳説しているため、ここではおさらいと実践です。チーズプレートを作る時は、食べやすいひとくちサイズに切りますが、砕いたりスライスしたりカットのしかたを変えて、見た目と食感にバリエーションを持たせます。外皮は食用にもプレゼンテーションにもなるので捨てずに活用します。印字はカゼイインクのため問題はないのですが、食べる際は表面をきれいに洗って汚れを取ります。1.5cm角に切って600wの電子レンジで1分間ほど加熱するとポップコーン風のスナックになります。口の中に水分をもたらす季節のフルーツやリセット効果のあるパンやナッツを副食材として添えると、ビジュアルがアップするだけでなく味変にもなります。

チーズボックス習作
レクチャーを受けた後は、実際にアーモンド型ナイフを使ってパルミジャーノ・レッジャーノの塊を砕いてマイチーズボックスを制作しました。仕切りを使って熟成別に分けたり、フルーツの水分がチーズに移らないようにしたり・・・など、各自工夫して詰めていきます。蓋をして装飾用のリボンを掛けて完成です。作ったチーズボックスはナイフとカッティングボードと共に持ち帰れるという、帰宅後のお楽しみもある充実のワークショップでした。

講師陣と受講修了者
2つのオンライン講座と座学すべての講座を受講修了した人には修了証が授与されました。自作のチーズボックスや使った道具を持ったりして、笑顔で記念撮影。1万2千円の受講費に見合う充実のコンテンツであったことがうかがわれました。
取材・文 Doemens Biersommelier 近藤さをり







